「はんぺん+うなぎのタレ」でうな丼ができると思った話
子どものころ、ウナギのタレご飯が、大好きでした。
5歳のとき、うなぎ屋さんに連れて行ってもらいました。もうね、それはそれは、かわいい頃です。かわいい女の子だった私が、何も知らない無垢な少女が、お店の人にこう言ったんです。
「上のヤツいらないから、タレご飯だけちょうだい。」
親は、薄ら笑いですよね。いやいや、待て待てと。上のヤツにこそ価値があるんだと。それとなーく諭そうとしてくるんですけど、こちとらもう、ウナギの神髄はタレご飯にあると確信してるんですよ。タレご飯こそがうまいんだと持論をとうとうと語っちゃうんですよね。
ゴメンね。ウナギ。
あれから40年。私は、スーパーで発見しました。
「ウナギのタレ」でございます。
なんと、ウナギエキス入りです。
どんな食べ物でも一瞬にしてウナギになる魔法の液体を見つけた気分でした。
だから、はんぺんにかけて、うな丼を作ろうと思いました。
ん?
上のヤツ、いるの?
って思ったかな。思ったよねー。ご飯にタレをかけるだけでいいじゃん。って思ったよねー。
いや、もうね、40年も経ってるんで味覚が変わってるんです。上のヤツ、欲しいです。だって、うな丼にうなぎいなかったら、ヅラかぶるの忘れて出勤しちゃった人じゃないですか。そんな人いるわけない。
ってなわけで、はんぺんでうな丼作りまーす。
はんぺんと長いもをすり鉢でゴリゴリする
はんぺんと長芋をすり鉢でゴリゴリしてみました。長芋は、つなぎになってくれ、という思いが込められています。
作業をしていると、企業様が一度固めたはんぺんを、いったん分解して、また組み立てようとするのは無駄じゃないか…という気がしてきましたが、もう、始めてしまったので突き進みます。
なかなか、はんぺんがなめらかになってくれないので、ミルサーを使いました。
つなぎになってくれとの思いを込めて、片栗粉入れます。
海苔にのせて…焼く
海苔の上にうすく広げまして、お箸でウナギっぽい筋を入れて焼きます。見た目もウナギっぽくするのです。
無計画に始めたことって、うまくいかないですよね。
私、方向音痴じゃないんですけど。全然、地図は読める女なんですけど。たまに、地図を見るのが面倒なときがあるんです。地図がなくても、だいたいあっちの方角だなっていうのはわかるじゃないですか。その第六感があれば、迷わないんですよ。
で、ある日、目的地は「海」の方だなって思って歩いてたんです。だけど、行けども、行けども、目的地が見つからない。アイツ、恥ずかしくて隠れてやがるな…ってなもんです。1時間経って、仕方ないので地図を見たら、「海」だと思ってたものが「川」だったんですよね。いやー、方向、ぜんぜん違うじゃんみたいな。目的地は駅から10分もしないでたどり着けるところにありました。ぜんぜん隠れてなかった。
で、このウナギさんも、迷子の空気感があるなーって。ぐちゃぐちゃだし……。うまくひっくり返せないし、フライパンにくっつくし……。どこに行こうとしてるのかなー。
もしも、迷ったかなって不安なときには、わたしはこうします。あの日と同じ。
無理やり、前に進む。
じゃー――――ーん。お酒とタレをぶっ込みます。
どうですか、このうな丼
うな丼ができましたー。ドンドンドンドン・パフパフパフパフ。
ほーら、迷ってなかった。なんて、おいしそうなんでしょう。見た目は完璧でーす。わたしのことを方向音痴だなんて誰にも言わせない。
では、いっただきまーーーーーす。
食べてみた。
ええとね。
目的地、ちょっと、違ってたかな――?
ちょっと、期待とは、違うかもしれない…みたいな。
あのさ。みんな知ってた?はんぺんって、味があるんだよね。なんか、真っ白だから、無味無臭のイメージだったけど、ちゃんと、ある、魚の香りと味。
で、その、はんぺんの味と、ウナギエキスが、いまいち、同居できないっていうか。ほら、似たもの同士だからこそケンカが絶えないカップルっての?きみたち、相性悪いから、別れた方がいいよ。みたいな。
あれから40年。私は、思いました。
「上のヤツ、いらない」
ふと、思ったんですけど。なんで、ウナギのタレに、ウナギエキスを入れたんでしょう。本物のウナギがそこにあるならば、ウナギエキスっていらないですよね。も、もしやっ……これは、本気でウナギのタレご飯を楽しむための商品なのではっ……!私以外にも、「うな丼の真骨頂はタレご飯」派、けっこういるんじゃないのかと。大変なことに気づいたので、残り半分は、タレご飯として楽しむことにします。ゴメンね。はんぺん。
ワッホイ、ワッホイ。