乳がんの手術で大変だったことを明るく経験者が語ります
乳ガン手術という非日常的な体験をしたので、やっぱりどうしても語りたい。調べた限り、似た体験談は見当たらなかったので、だぶん価値ある話だと思って書く。けれど、誰の役にも立たないだろうとも思う。まあ、笑い話だと思って読んでってー。
西洋医学って、ほんと、ドS。
そう思いません?たぶん、この記事に到達した人って98.9%くらいが同士だと思うんですよ。そんな人ならさ、そろそろ「マンモ、痛くてやだー」とか言うヤツは甘え、って気分になってません?マンモのその先にある数々の検査を乗り越えた人なら、「あんなん乳ガン検査四天王のうちでも最弱ってなもんですわよ」って思っちゃうに決まってる。
だってさ、マンモの次は、針をプスッ。そんでまた採血して、MRI撮るっていうんでバイオハザードみたいな地下室に連れて行かれて、新進気鋭のトランステクノを大音量で聞かされて・・・・・・。あー、もう、長生きするってつらいー。高齢者ってすごいんだな。こんな大変なこと乗り越えて生きてるんだもん。って、ちょっと尊敬の念を抱きながら、私は今日もまた、まな板の上です。
何をやらされてるかっていうと、なんか検査。手術の前日に入院しろと言われたのでやってきたら、看護師さんが「3時に地下に行ってください」って言うもんで、とりあえず指示に従ってみた。でもって、保健室の長椅子みたいなところに寝かされています。何をするのか、正直、把握してない。
今まで、痛い検査の数々を乗り越えてきた。もうこれ以上の痛みなんて味わいたくない。あー、今日のは痛くないといいなって心から願う。だって人間だもの。
っていうかさ、うまい人がやると痛くないとかあるよね。私、血管がマイクラのレッドストーン並みに見つけづらいみたいで、採血する人がたいがい戸惑う。縦に、横に、ここかな?ここかな?とマイニング。何カ所もプスプス、ぐりぐりやられたあげく、「ごめんなさい、ベテランよんできまーす」とか言われて。で、なぜか呼ばれたベテランさんは、何事もないように、すっと刺して、かっこよく去っていく・・・・・・。
あれ、なんの差なんですかね。
あー、名医来ないかなぁ。痛くない人がいいなー、とか思いながら寝ていたら、やってきた。
「明日の手術、助手で入らせていただく松田です」
黒光りの外科医!!若い、イケメン、そしてチャラい。
週末はテニスやってますみたいな日焼け具合。楽太郎なみに黒い。恋愛リアリティーショーで女の子3人に貝殻のペンダントプレゼントしてそう。なんだ、このステレオタイプそのものの外科医。こういうヤツってさ、ちょっとSでさ、それがモテたりするんだよ。あああ、そこの楽太郎。絶対、痛くすんなよっ。と、私のリフレインが叫びはじめた。
「名前と生年月日お願いしまーす。ほんとは聞かなくてもいいんですけどね。一応ルールなんで。怒んないでくださいねー」
うわー、言うことまでチャァァァァラーーーーイ!コンプライアンス感覚がボムボムプリンの肉体程度にゆるゆるじゃないか。検査室の入口に「入る前に手を消毒!(ドクターもやってください)」とか張ってあったけど、それ、お前のことだろーーーー。
で、もって、ここからが大変。楽太郎ってば、巨大な注射器持ち出してきた。もうね、ドリフのコントでしか見ないようなサイズのヤツ。客席のいちばん後ろからでもよく見えるくらいでっかいヤツ。わたしは完全にまな板のうえの鯉。たぶん口パクパクしてる。ヤバい、ヤバい、ヤバい。楽太郎が、私の胸に狙いを定めて……
「痛いですから、本当に痛いですから」
とか言い出す。うおおおおおおおい!ふつうそこは「痛くないですから」だろ。おめー痛いですからってどういうことだぁ。痛くなくやれーーーーーーー。
という、私の心の声は神にさえ伝わることがなく、ブスっとひと思いに刺されました。マジで痛かった。サボテンダーの針が1本流れ弾的に当たったときくらい痛い。千本刺さっても、まだ戦えるってクラウドどんなだよ。そんな戦慄の施術を終えて、楽太郎はなんかとっても満足顔。
「これ、痛くないと、うまく入ってないってことなんだよね」
今日もいい仕事したな……みたいな顔しながら、器具を片づけてる。そうかそうか私の痛がる顔を見て、自分の腕はすばらしいと、あー、そう思っていらっしゃるのですか。痛いほうが上手っていう治療の存在に、少しは疑問に持ってくれぇぇぇ。
ってなわけで、楽太郎は私のおっぱいに「ヒダリ」と下手な文字で落書きし(手術する側を間違えないように印を書くのだけど、字が下手すぎて工事現場みたいになってた)、明日はよろしくー的な感じで解散に。あとから看護師さんに「これ、なんの検査っすか?」って聞いたら、「聞いてないんですか!」と驚かれた。医者のテキトーさを看護師がカバーすることで成り立ってる、この業界。
で、手術の話を書こうと思っていたんですけど、全身麻酔って、すごいっすよね。なんの記憶も残らない。手術室に入って、たくさんの人に囲まれて、「脈拍計つけます」「なんとかの管入れます」「点滴刺しますね」「はいビリビリしまーす」とか次々言われて、わたしゃ、聖徳太子じゃないんですよと思った次の瞬間、「高橋さん、終わりました」って。
終わったの???!??!??
ってなノリだったので、書くことが一切ありません。術後すぐに「動いて大丈夫ですよ」とか言われるんですけど、メドゥーサの首を見ちゃったときくらい動けなくて、2時間はベッドでぐったりしてた。
そこへ楽太郎が様子を見にやってきた。昨日も手術中もメガネだったのに、コンタクトになってイケメン度があがってた。ああ、施術の時は見やすいメガネに変えるとかそういうことする程度には仕事に対してはまじめなのねー。
で、「ちょっと傷口見ますねー」といって、わたしのパジャマをはだけさせ、止血用のバストバンドを器用にはずしていく。でもって、めちゃくちゃ見てるなと思ったら、
「すごい。きれいですね。やっぱ先生すごいわー」
と絶賛。よく知らないんだけど、執刀医の先生、すごいらしい。何がすごいか聞いたら「形、ぜんぜん崩れてないじゃないですか」とか言ってた。すっごい見てるんだけど、それは全然やらしくなくて、なんてーか、傷あとに対する興味だけがハンパない感じだった。
チャラいとか思ってごめんよ。君、仕事に対してはすごくまっすぐなんだね。いい医者になれると思うよ。わたしは心の中で、そっとほめてあげました。
そして、止血用のバストバンドを元に戻す。こういう手つきは上手なんすよ。きっちりと止めてくれて、
で、行っちゃった・・・・・・。
カーテンが閉まり、足音が遠のいていく。窓の外に視線を移すと神社の木がちょっとだけ赤くなっている。そうか、もう、紅葉の季節だな。室温は高度に管理されているとはいえ、ちと寒い。
って、おおおおおおおおい、パジャマを元に戻してけええええええ。
数十分後にやってきた看護師さん。はだけた私のパジャマを見て「どうしました?暑かったですか?」と驚き焦る。私が死に際の被害者よろしく「あいつが・・・あいつが・・・」と声なき声をしぼりだしてたら、「ああー」と妙な納得顔してた。常習犯・確定。
西洋医学って、ほんと、ドS。
えええと、痛いとかいっぱい書いちゃったので、これから手術に向かう人を怖がらせてたらよくないなと思って補足です。うーん、確かに痛かったんですけど、大丈夫です。行ってしまえばやられるしかないので、なんとかなります。そして終わってみると「人間ってすごいなぁ」って思うくらいに回復します。ちなみに私はこの1時間後くらいにはすでにスパゲティミートソースを食べてました。おいしかった。さらに乳がん治療の業界は技術の進歩が本当にすごくて、どんどん負担が少なくなっている印象がありました。なので、私よりあとに続く人は、きっと楽になってます。辛いこともあるかもしれないけど、生きるためなので。がんばろー。